福井県おおい町の山間部、標高およそ500メートル。
かつて集落として暮らしがあったこの地には、今、豊かな自然を楽しむ人々の声が響いています。年間5,000人以上が訪れるキャンプ場・八ヶ峰家族旅行村。その歩みを語るうえで欠かせないのが、テンガロンハットがトレードマークの尾花幸次さんです。

廃村だったこの場所を、半世紀以上かけて次の世代へとつなぐ場へ。今回は尾花さんの語りを通して、夏のキャンプシーズンを前に、八ヶ峰に込められた思いと挑戦の軌跡をたどります。

50年以上八ヶ峰家族旅行村を運営してきた尾花さん

かつての廃村が、人が集うキャンプ場へ

―八ヶ峰家族旅行村の成り立ちについて、教えていただけますか。

実はここ、元々は集落だったんです。でも過疎化が進んで廃村になってしまった。それを見て『もったいないから何かに利用できないか』と考えた先人たちが、1968年に染ヶ谷(そめがたに)養魚場を始めたのが最初でした。そこからキャンプ場やバンガローへと発展して、今に至っています。

八ヶ峰家族旅行村の全景

ー今では年間5,000人が訪れる場所になりました。

廃村になった集落なのに、今では年間5,000人もの方が訪れてくださる。これは本当にお爺さんやお父さんたち、前の世代の人たちが知恵を出して残してくれたおかげです。私も次の世代へつないでいく役割を担っていると思っています。

自分の親や祖父世代がいまの時代に残してくれたように、私も孫に「じいちゃんが始めてくれた〇〇が今も続いている」じいちゃんがつくった〇〇や」って言われたい。次の世代に残るものを作りたいんです。でも、長年続いていくようなものを作るのは、本当に難しいんです。

50年以上キャンプ場をやってきて、牛の放牧、オウレンという薬草の栽培、スライダー、しいたけ栽培、学生サマーキャンプ、ニジマス養殖など、本当にいろいろなことをやってきました。
最近だとトレイルランニングレースやテントサウナ、ドッグランですね。

トレイルランニングを楽しむ参加者

「ウリボー」との忘れられない思い出

―これまでの運営の中で、印象深い出来事はありますか?

30年ほど前のことですが、ウリボー(猪の赤ちゃんのこと)を保護したことがあるんです。可愛かったので「ハチ」という名前もつけて、『お手』『おすわり』『回れ』の3つの芸まで教えました。子供たちにも大人気でした。
でも大きくなると100キロほどにまで成長して、なんと力が強く食欲が旺盛なことかと!檻に入ると追いかけ回されて、大変でした。そこで山に返すために、峠も越えて、かなり遠いところでお別れしたんです。

ところが2日後に戻ってきた!またお別れをしに行ったのですが、後日山仕事をしているときに、その猪らしき猪を見かけたんです。名前を呼ぶとこちらを見ていました。動物にも故郷というか、そういうなつかしい記憶みたいなものがあるんだなと思いましたね。


犬にも人にも心地よくあるために

―最近力を入れている「ドッグラン」について教えてください。

空き地があったので活用してドッグランにしてみました。来てくださったお客さんに声をかけて、日々改善してもっと快適に過ごしてもらいたいと思ってやっています。木陰を作るために木を植えたり、木材でベンチを作ったり。

草木の成長はとても早いので、数日ごとに刈ってあげないとすぐに伸びてきてしまいます。そうなると犬も気持ちよく走り回ることができないので、誰のための場所なのかを意識して管理しています。

口コミをきっかけに遠くから来てくださるお客さんも多くて、「なんでうちを選んでくれるの」と聞くと、「広いし、地面が柔らかいし、自然がいっぱいだから』と言われます。
ペット愛好家の方からも「手入れが行き届いていて犬がのびのびできるいいドッグランですね」と褒めていただきました。そのことがうれしくて、これからも、犬も飼い主もみんなが寛げる場所にしたいと思っています。

広大なドッグランは、大型犬も走り回れる広さ

ドッグランの中には尾花さん手作りのベンチなども設置されている

八ヶ峰家族旅行村のこれから

―今後やってみたいことは?

私が子供の頃、川でその遊びをやっていて楽しかったから、カジカを増やして、モリで突く体験を作りたいと思っています。割り箸にマッチ針をくっつけて手作りのモリをつくるんです。

こんな遊びを孫の世代にも味わわせてあげたいんです。

八ヶ峰家族旅行村内の川は水深が浅く、小さな子どもも楽しめる

ー八ヶ峰家族旅行村の魅力と、展望を聞かせてください。

私にとって、ここは出会いの場なんです。来てくださった方が声をかけてくれる。

「子供の時に親と一緒に来ていました」
「自分が子供を育てるようになって、またここに来るようになりました」
「三世代みんなここのファンです」

それに、「自分の故郷を思い出します」「なつかしい」と言ってくれる方もいます。そんな田舎や自然を愛してくれる人と、昔懐かしい気持ちを共有する時間が楽しく、心地いいんです。

先人たちが知恵を出して残してくれたこの場所を、私も次の世代につないでいきたい。新しいことにも挑戦しながら、この自然豊かな環境で多くの方に『なつかしい』と感じてもらえる場所であり続けたいと思います。

親子2世代で訪れた兄弟に「〇〇が見られる秘密の場所」を教える尾花さん

おわりに

尾花さんは、「孫に“じいちゃんがつくった場所”って言われたらうれしい」と笑いながら話してくれました。その言葉に、この場所を守り続けてきたあたたかい思いが込められています。

尾花さんやスタッフの方々との会話を楽しみに訪れる方が多いのも、この場所ならではの魅力です。「この草はこう遊べるんや」「この虫にはな、面白い習性があるんや」と語る尾花さんの言葉には、子どもも大人も思わず耳を傾けます。

のんびりと家族で過ごしたい休日には、あたたかく迎えてくれるスタッフの皆さんと、五感で味わえる自然とのふれあいが楽しめる八ヶ峰家族旅行村で、「どこか懐かしい」時間をぜひお過ごしください。


所在地福井県大飯郡おおい町名田庄染ケ谷
電話番号0770-67-2844
ファックス0770-67-3434
営業時間バンガロー・民家 午後0時30分~翌午前10時30分オートキャンプ 正午~翌午前11時30分
ホームページhttp://hachigamine.jp/(新しいウィンドウで開きます。)